二人を繋ぐ愛の歌

「沙弓」

耳元で名前を呼んだ声と腕を掴んだ手の主の正体が誰か分かると、沙弓は知らないうちに入っていた身体の力を抜いて首だけで後ろを振り返った。

「……いきなりビックリするじゃない。
それにどうしてこんな所にいるの?忙しくなるって言ってたのに……」

そう聞くと陽人は長い前髪の隙間から垣間見える瞳を何か物言いたげにしながらじっと見つめてきた。

近くで沙弓同様に驚いた様子の南尾と、状況が分からずキョトンとしながら見守っている遥に声で正体が気付かれないように、陽人はぐっと沙弓を自分に引き寄せるとそっと耳元で小さく囁いた。

「会いたかったし、どうしても渡したい物があったから。
でも、来て良かった……」

「っ……!」

決定的な言葉は言えないと言っていたのに、決定的ではないギリギリな言葉は言えるらしい。
耳元で熱い吐息と共に囁かれた言葉に沙弓は自分でも分かるくらい真っ赤になってしまった。

そんな沙弓の見えないところで陽人は南尾を強く睨みつけ、それを受けて南尾も鋭い眼差しを陽人に向けている。
遥はそんな二人を前に楽し気に目を輝かせていたが、そんなことは知る由もなかった。

「あの、お取り込み中すみません。
もしかして沙弓の彼氏、ですか?」

好奇心を押さえられなかったのか遥は物怖じする様子もなく陽人にワクワクした様子で問いかけると、陽人は前髪の隙間からチラッと遥を見ると首を横に振った。
声で正体がバレるのを危惧して話せない陽人をフォローしようと口を開こうとしたが、その前に南尾が沙弓に近付くと陽人が掴んでいる方とは違う腕を掴まれグイッと引き寄せられた。