二人を繋ぐ愛の歌

『ねえ、俺聞いてなかったんだけど』

電話の向こうで少し不機嫌な声が聞こえてきた。
夜、少し遅めの時間に着信を受けて鳴り響いたスマホを手に取り、そこに表示された陽人の名前を確認してから出ると開口一番にそう言われた。

「実は私も今日聞いたの。
腰も大分良くなって動けるようになったし、新しい人を雇ったからもう手伝いは大丈夫だって」

『……それにしても急すぎない?』

「親戚間のお手伝いなんてそんな感じだよ?」

手伝いを頼まれた時もかなり急で強引だったとその時の事を思い出しながら苦笑して言うと、陽人は小さな溜め息をついたようだった。

『沙弓に会える口実が減る』

「……そう、だね」

『もうすぐ新曲の宣伝やライブツアーで忙しくなるから、さらに会える時間がなくなる』

「それは……」

少し寂しいかも。と言いそうになって沙弓は慌てて口を閉じた。

決定的な言葉を言わないとあの時言ったのだから、感情に乗せた言葉も発さない方がいいと判断してのことだった。
出そうになった言葉を懸命に飲み込み胸の辺りを数回撫でると、沙弓はゆっくりと口を開いた。

「……ライブってこの近くでもやるの?チケットの販売始まってる?」

『近くでは一ヶ所だけだな。
ほら、あの大きなドーム、あそこでやる。
チケット販売もまだ始まってないけど……』

「じゃあ、頑張ってチケット取って会いに行こうかな……」

そしてこの目で実際に見てみたい。
陽人がハルトとしてどんな風に歌って踊っているのか。
どんな風に光輝いているのか……。

そう思っていたら陽人がふっと微笑んだような気がした。

「うん、頑張って会いに来て」

その嬉しそうな声色に沙弓も嬉しくなって笑った。