優しい風景が一瞬にして呑み込むかのような闇へと変わった。


霊安室に置かれたあの日の光景が私の目の前に現れた。



白い布を顔にかけられた、あの人の細い腕が、やけに不気味だった。


「~~~・・・。」


小さな呟きが聞こえた。


「・・・なに?なんていったの?」


すでに息をしていないはずの顔に耳をそっと近づけた。


ぶつぶつとした呟きが耳に届いた。


「・・・さえ・・・ば」


さらによく聞こうと顔を傾けた時、やせて骨ばった手が、勢いよく私の方に伸びてきて、ガッとつかんた。


「っひ」


たじろいた私の腕をあの人は強くつかんで離さなかった。


むくりと上体を起こしたあの人の顔から布がおちる。


俯いた顔から表情は読み取れない。


ゆっくりと顔をあげて、私の腕を引っ張った。


ずいと近づけられた、その顔から表情は抜け落ちて、くぼんだ目が見開かれて私を見つめていた。


白い肌が命を感じさせない。


光を写さない瞳が黒く、底なし沼のようだった。


全身から嫌な寒気がした。