奴は、時に重く鋭い銃弾となって、私を傷つけ、時に燃え盛る炎となって、私を焼きつくし、時に毒となって、私を蝕んだ。あと1か月。あと1か月で、この拷問からは解放される。そう思って私はノートを黒く埋めつづけていた。窓の外には濁った黒と眩しく光る街灯と自動車の白色光が広がっていた。視線を戻す。机に並ぶ参考書の数々。私は活字の沼の中に引きずり込まれた。息ができない。這い上がれない。いやだ。目を閉じる。視線の先に得体の知れない怪物の気配。疲れた。

1枚の紙に、私はバラバラに引き裂かれた。嘘だ。そう。嘘だ。ありえない。1ヶ月前。努力圏。努。力。圏。その隣に、合格圏。涙は出なかった。まったくの白紙 –––––– 違う。白紙なんてものもない。何もない。疲れた。

いつのまにか塾を出ていた。3時間の授業はどこか遠くへ行ってしまったみたいだ。駅へ向かう。
いつものように、無表情な大衆が駅の構内を埋め尽くしていた。夜10時32分。「いい」高校に行って、「いい」大学に行って、「いい」会社に入る。そうやって進んでいった先にあるのは、何だろうか。「素晴らしい未来」だろうか。今頭痛にさいなまれ、青白い顔で偏差値を追い求めることが、何のためになるのか。
私は冷静な自分に気づいた。それはとても奇妙な感覚だった。引きちぎられた自分を見つめる冷静な自分。それをもう少し上の方から俯瞰している自分。あれ?
急に目頭が熱くなった。あれ?
不意に何かに覆われたような気がした。呼吸を荒らげ、溜まりに溜まった何かを吐き出すように、激しく泣いていた。
––––– そんな感覚も、急にどこかへ失せてしまった。