~1~
「行ってきます!」
私_坂口萌香は、足早に慣れない通学路を歩いていく。太陽は私たちを優しく暖かいベールで包み、まさに絶好の新学期日和だ。
昨日は、高熱を出し、中学式を休んだため、一日遅れてのスタートである。
ついてないなー。でも、頑張って友達作るんだ!
なんとか学校へ着き、私は自分のクラスの場所を探した。
「んー、1-Bだよね…何処!?」
授業が始まるまであと五分しかない。
「何やってんだよ。一年のクラスならコッチ」
急に話しかけられ、私は一瞬びっくりしたが、彼の方を見て言った。
「ありがとー!私、昨日休んでて…」
「どーりで隣の席があいてたんか…」
「あ、同じクラスだったの!?」
マジか!と思いながら、何かが心に少し引っ掛かった。
私、この人のこと、見たことある気がする…。気のせい、だよね?
そんなことを考えていたら、いつの間にかクラスに着いていた。
「ごめん、ありがとっ」
ちらっと名前も知らない彼の方を伺うと、ぶっきらぼうの顔のままだった。
「名前はっ?」
「…山岡優斗だけど」
山岡優斗か…ちょっと冷たいけど、根はいい人ぽいっし、いっか!でも…やっぱり見たことある気がするんだよね。
一時間目、二時間目と、ずっと先生の話や一学期の目標決めなど、つまらないものをしていた。
その間私は、ほとんど、なかなか進まない時計の針と、山岡のことしか見ていなかったと思う。別に好きだから見ているという訳じゃなく、何か魅力的なものを感じていたのだ。
モテそうだなあ。
ぼんやり考えていたら、休憩時間になっていた。
よしっ。誰に話しかけに行こう…。一人だけは本当にやだ!と思っていたら、後ろから肩をツンツンとつつかれた。
「ん?何?」
振り返ると、その子はとても可愛く、わぁっと声をあげそうになった程だ。
すると、その子は躊躇いがちにこう言った。
「あのー良かったらなんだけど…。LINE交換しない?」
「え!?」
本当に?こんなレベルのかけ離れた私としてくれるのか…。君は神か!
「もっちろん。めちゃめちゃOK!」
「面白いね。萌香ちゃんって~」
「え、何で名前知ってるの…?」
私はびっくりして、恐る恐る聞いた。
「だって、そこに書いてあるもんー」
彼女は私の机に貼ってあるネームプレートを指差した。そうか!と納得し、話は続いた。彼女の名前は秋田菜子というらしい。
菜子ちゃん、いい人そうだし、良かった良かった。
授業が終わり、下校の時間になると、みんなお喋りをしながら教室を出て行った。私も帰ろうかな、と通学鞄をしょうと、少し急いで教室を後にした。
「はぁ~疲れたっ!」
誰もいないことを確認し、私は言った。そうしたら、後ろから足音が近づいてきた。ん、もしや聞かれた!?
後ろをこっそりと振り返ると、山岡の姿があった。
「あー、山岡じゃん!もしかして今の聞いてた?」
彼は視線を明らかに私から逸らす。
「バッチリ聞いてた。声デカ過ぎたろ」
「だって、新学期だよ?疲れたんだもんーっ」
山岡は少し、笑っていた、気がした。
その時、私の脳裏で何かが結び付いた。過去の記憶がフラッシュバッグしてくる。
*
「萌香って何か絡みづらいよねー」
「ねー何でウチらといるんだろうね」
「マジ分かる!てか全然自分の意見言わないじゃん?」
教室に戻ろうとした私はそれを聞いてしまった。
その時の私はあまり自分の意見を言わないタイプだった。しかし、そこまで言われていると気づかなかった私は、その場から猛スピードで去った。汗と涙、どっちか分からないくらい、走って、泣いた。
「うわああああっ!」
日が開けるまで、ずっと。
家に帰ったら、お母さんにこっぴどく叱られた。
お母さんは心配もしてくれたが、私は聞く気にならなかった。「大丈夫?何かあったの?」等。私は、「うん…」とばかりしか、答えなかった気がする。
次の日、学校に行っても、授業以外はずっと屋上に一人、立っていた。
昼休み、同じようにまた屋上に行き、空をぼんやりと眺めていたら、涙が出てきた。と、その時。
屋上の扉がいきなりガチャっと開いた。
「わああっ!」
中からは、中学生にしては背が低めな_男子が出てきた。
「驚かせてごめん!僕、この場所大好きなんだ。君も?」
私はこくん、と頷く。
「何かさ、イヤなことがあっても、ここで空を眺めてたら、そんなのすぐに吹っ飛んじゃう気がしてさ」
君も?とまた同じ感じで聞かれ、私もまた、こくん、と頷く。
「名前、何てゆーの?」
「…坂口萌香だよ」
「じゃあ、萌香って呼ぶ!」
私はその彼の屈託のない笑顔に、恋をしていた。胸に暖かいものが広がってゆく。
「何かあったら相談して!いつでもだいたい屋上にいるからさ」
そう言うと彼は帰って行った。ドアを開けると振り返り、「ちなみに僕の名前は佐鳥優斗。バイバイ」
私も小さく手を振る。気がつけば私は笑顔になっていた。
次の日も、そのまた次の日も、屋上に来ては、話していた。
夏休みに入る頃、優斗君に言われた一言。
「いつまでも友達だからね、約束!」
そうか、私たちは友達だったのか、と思い、私は「うんっ!」と言った。
もう相談どころか、お互いの趣味等も語り合える仲になっていたのだ。優斗君にだったら何でも話せちゃう。ずっと友達。
私もそれを信じてた。だけど_。
夏休み明け。学年集会の話だ。
「佐鳥優斗君は、福岡県に引っ越すことになりました。急な発表ですみません。では、佐鳥君。一言よろしくお願いします」
私は頭の中が真っ白になった。え?引っ越し?そんな話、なかったよね?
「今までありがとうございました。次の学校でも頑張るので、みんなも頑張ってください」
拍手が起こる中、私だけは呆然と立ち尽くすばかりだった。サヨナラを言えないまま、お別れが来るなんて_。
でも、このことは、あまり思い出さないようにして、中2、中3と過ごした。
もう、こんな辛い思いはしたくないから。変わろう。
*
山岡の笑顔は一瞬、ほんの一瞬だが、中1の頃の“優斗君”の笑顔に見えた。
でも、そんな訳ないよね?同じ優斗だってだけじゃん。何より性格が違い過ぎるよ。
「坂口?」
私はやっと回想モードから抜け出した。
「あ、ゴメンゴメン山岡、ボーッとしてた!」
「なら良いけど」
山岡は気だるそうに言った。
「何かあるなら相談しろよ」
え?その言葉…優斗君も言ってたような…?
「あ、ありがと…」
気が付くと私たちは、学校の外を歩いていた。ま、まさか一緒に帰るの!?
「山、岡…は、家、何処なの?」
すると、山岡は右側のアパートを指差した。
「そこだけど」
「ええぇ!?家、近くない?学校まで徒歩一分じゃん!イイナー」
「良いだろ~」
これ見よがしに言ってくる。でも、この笑顔を見ると、なんだか引き込まれる感じがするのだ。
空を見ると、もう真っ暗だった。
「あ、じゃ、バイバーイ!山岡」
「じゃーな」
あ…
「山岡、あのさ…」
「ん?何?」
私は少し言うのを躊躇い、「やっ、やっぱ何でもない!」と逃れた。
「あっそ」
一蹴されてしまった。やっぱり、聞けば良かったかな。でも違ってたら嫌だし。いっか。
通学路はまだ慣れず、新鮮な感じがする。あ、後で菜子ちゃんにLINEしよっかな。
「ただいまー」
私は、ふぅ、と溜め息をつく。
「学校、どうだったの?」
お帰りより先に、それを聞く母は、改めて心配性だな、と思う。
「楽しかったー。菜子ちゃんと山岡って人と、仲良く?なれた!」
「あら、良かったじゃない。萌香、ずっと心配してたのよ。友達出来るかって」
そうなのか。そんなこと思っていたなんて、知らなかったよ。
夜、LINEが一通届いていた。菜子ちゃんからだった。
『萌香ちゃん。登録したよ~よろしくね!』
「菜子ちゃん、よろしくねっと…」
やった~!と私は跳び跳ねる。菜子ちゃんという、とても優しい友達が出来るなんて…。
すると、一分も経たない内に、また着信音が鳴る。
「何だろ…」
『あのさ…私が、同じ中学校だった三葉華月っていう男子がいるんだけど、この三人でグループ作りたいんだよね…。萌香ちゃん、良い?ごめん><お願いします(TT)』
「えっ、全然OKなんだけど!」
私はすぐさま返信をする。そうしてグループを作成し、よろしく、という挨拶だけして、私は眠りについた。
「行ってきます!」
私_坂口萌香は、足早に慣れない通学路を歩いていく。太陽は私たちを優しく暖かいベールで包み、まさに絶好の新学期日和だ。
昨日は、高熱を出し、中学式を休んだため、一日遅れてのスタートである。
ついてないなー。でも、頑張って友達作るんだ!
なんとか学校へ着き、私は自分のクラスの場所を探した。
「んー、1-Bだよね…何処!?」
授業が始まるまであと五分しかない。
「何やってんだよ。一年のクラスならコッチ」
急に話しかけられ、私は一瞬びっくりしたが、彼の方を見て言った。
「ありがとー!私、昨日休んでて…」
「どーりで隣の席があいてたんか…」
「あ、同じクラスだったの!?」
マジか!と思いながら、何かが心に少し引っ掛かった。
私、この人のこと、見たことある気がする…。気のせい、だよね?
そんなことを考えていたら、いつの間にかクラスに着いていた。
「ごめん、ありがとっ」
ちらっと名前も知らない彼の方を伺うと、ぶっきらぼうの顔のままだった。
「名前はっ?」
「…山岡優斗だけど」
山岡優斗か…ちょっと冷たいけど、根はいい人ぽいっし、いっか!でも…やっぱり見たことある気がするんだよね。
一時間目、二時間目と、ずっと先生の話や一学期の目標決めなど、つまらないものをしていた。
その間私は、ほとんど、なかなか進まない時計の針と、山岡のことしか見ていなかったと思う。別に好きだから見ているという訳じゃなく、何か魅力的なものを感じていたのだ。
モテそうだなあ。
ぼんやり考えていたら、休憩時間になっていた。
よしっ。誰に話しかけに行こう…。一人だけは本当にやだ!と思っていたら、後ろから肩をツンツンとつつかれた。
「ん?何?」
振り返ると、その子はとても可愛く、わぁっと声をあげそうになった程だ。
すると、その子は躊躇いがちにこう言った。
「あのー良かったらなんだけど…。LINE交換しない?」
「え!?」
本当に?こんなレベルのかけ離れた私としてくれるのか…。君は神か!
「もっちろん。めちゃめちゃOK!」
「面白いね。萌香ちゃんって~」
「え、何で名前知ってるの…?」
私はびっくりして、恐る恐る聞いた。
「だって、そこに書いてあるもんー」
彼女は私の机に貼ってあるネームプレートを指差した。そうか!と納得し、話は続いた。彼女の名前は秋田菜子というらしい。
菜子ちゃん、いい人そうだし、良かった良かった。
授業が終わり、下校の時間になると、みんなお喋りをしながら教室を出て行った。私も帰ろうかな、と通学鞄をしょうと、少し急いで教室を後にした。
「はぁ~疲れたっ!」
誰もいないことを確認し、私は言った。そうしたら、後ろから足音が近づいてきた。ん、もしや聞かれた!?
後ろをこっそりと振り返ると、山岡の姿があった。
「あー、山岡じゃん!もしかして今の聞いてた?」
彼は視線を明らかに私から逸らす。
「バッチリ聞いてた。声デカ過ぎたろ」
「だって、新学期だよ?疲れたんだもんーっ」
山岡は少し、笑っていた、気がした。
その時、私の脳裏で何かが結び付いた。過去の記憶がフラッシュバッグしてくる。
*
「萌香って何か絡みづらいよねー」
「ねー何でウチらといるんだろうね」
「マジ分かる!てか全然自分の意見言わないじゃん?」
教室に戻ろうとした私はそれを聞いてしまった。
その時の私はあまり自分の意見を言わないタイプだった。しかし、そこまで言われていると気づかなかった私は、その場から猛スピードで去った。汗と涙、どっちか分からないくらい、走って、泣いた。
「うわああああっ!」
日が開けるまで、ずっと。
家に帰ったら、お母さんにこっぴどく叱られた。
お母さんは心配もしてくれたが、私は聞く気にならなかった。「大丈夫?何かあったの?」等。私は、「うん…」とばかりしか、答えなかった気がする。
次の日、学校に行っても、授業以外はずっと屋上に一人、立っていた。
昼休み、同じようにまた屋上に行き、空をぼんやりと眺めていたら、涙が出てきた。と、その時。
屋上の扉がいきなりガチャっと開いた。
「わああっ!」
中からは、中学生にしては背が低めな_男子が出てきた。
「驚かせてごめん!僕、この場所大好きなんだ。君も?」
私はこくん、と頷く。
「何かさ、イヤなことがあっても、ここで空を眺めてたら、そんなのすぐに吹っ飛んじゃう気がしてさ」
君も?とまた同じ感じで聞かれ、私もまた、こくん、と頷く。
「名前、何てゆーの?」
「…坂口萌香だよ」
「じゃあ、萌香って呼ぶ!」
私はその彼の屈託のない笑顔に、恋をしていた。胸に暖かいものが広がってゆく。
「何かあったら相談して!いつでもだいたい屋上にいるからさ」
そう言うと彼は帰って行った。ドアを開けると振り返り、「ちなみに僕の名前は佐鳥優斗。バイバイ」
私も小さく手を振る。気がつけば私は笑顔になっていた。
次の日も、そのまた次の日も、屋上に来ては、話していた。
夏休みに入る頃、優斗君に言われた一言。
「いつまでも友達だからね、約束!」
そうか、私たちは友達だったのか、と思い、私は「うんっ!」と言った。
もう相談どころか、お互いの趣味等も語り合える仲になっていたのだ。優斗君にだったら何でも話せちゃう。ずっと友達。
私もそれを信じてた。だけど_。
夏休み明け。学年集会の話だ。
「佐鳥優斗君は、福岡県に引っ越すことになりました。急な発表ですみません。では、佐鳥君。一言よろしくお願いします」
私は頭の中が真っ白になった。え?引っ越し?そんな話、なかったよね?
「今までありがとうございました。次の学校でも頑張るので、みんなも頑張ってください」
拍手が起こる中、私だけは呆然と立ち尽くすばかりだった。サヨナラを言えないまま、お別れが来るなんて_。
でも、このことは、あまり思い出さないようにして、中2、中3と過ごした。
もう、こんな辛い思いはしたくないから。変わろう。
*
山岡の笑顔は一瞬、ほんの一瞬だが、中1の頃の“優斗君”の笑顔に見えた。
でも、そんな訳ないよね?同じ優斗だってだけじゃん。何より性格が違い過ぎるよ。
「坂口?」
私はやっと回想モードから抜け出した。
「あ、ゴメンゴメン山岡、ボーッとしてた!」
「なら良いけど」
山岡は気だるそうに言った。
「何かあるなら相談しろよ」
え?その言葉…優斗君も言ってたような…?
「あ、ありがと…」
気が付くと私たちは、学校の外を歩いていた。ま、まさか一緒に帰るの!?
「山、岡…は、家、何処なの?」
すると、山岡は右側のアパートを指差した。
「そこだけど」
「ええぇ!?家、近くない?学校まで徒歩一分じゃん!イイナー」
「良いだろ~」
これ見よがしに言ってくる。でも、この笑顔を見ると、なんだか引き込まれる感じがするのだ。
空を見ると、もう真っ暗だった。
「あ、じゃ、バイバーイ!山岡」
「じゃーな」
あ…
「山岡、あのさ…」
「ん?何?」
私は少し言うのを躊躇い、「やっ、やっぱ何でもない!」と逃れた。
「あっそ」
一蹴されてしまった。やっぱり、聞けば良かったかな。でも違ってたら嫌だし。いっか。
通学路はまだ慣れず、新鮮な感じがする。あ、後で菜子ちゃんにLINEしよっかな。
「ただいまー」
私は、ふぅ、と溜め息をつく。
「学校、どうだったの?」
お帰りより先に、それを聞く母は、改めて心配性だな、と思う。
「楽しかったー。菜子ちゃんと山岡って人と、仲良く?なれた!」
「あら、良かったじゃない。萌香、ずっと心配してたのよ。友達出来るかって」
そうなのか。そんなこと思っていたなんて、知らなかったよ。
夜、LINEが一通届いていた。菜子ちゃんからだった。
『萌香ちゃん。登録したよ~よろしくね!』
「菜子ちゃん、よろしくねっと…」
やった~!と私は跳び跳ねる。菜子ちゃんという、とても優しい友達が出来るなんて…。
すると、一分も経たない内に、また着信音が鳴る。
「何だろ…」
『あのさ…私が、同じ中学校だった三葉華月っていう男子がいるんだけど、この三人でグループ作りたいんだよね…。萌香ちゃん、良い?ごめん><お願いします(TT)』
「えっ、全然OKなんだけど!」
私はすぐさま返信をする。そうしてグループを作成し、よろしく、という挨拶だけして、私は眠りについた。