「もしかして、黒部アイさんが日本で初めての患者ですか?」


「いえ、確か・・アイさんは5件目か6件目だったかな・・。

ただ、東大病院を出てここに赴任してからは初めての患者さんだったので、

そういう意味で強く印象に残っていました。」


「じゃあ早速質問に入らせて頂きます。

娘のリカさんの事で何か覚えてる事はありませんか?

どんな些細な事でも構いません。」


「そうですね・・・・。

これはご主人のテルヨシさんにも言える事ですが、

初めて会った時は今にも泣き出しそうな表情をしていたのを覚えています。


私がここに赴任してくる前、

ファーストオピニオンでアイさんの病は“治療不可”と通告されていたようだったので、

黒部さんご家族からはどこか・・

“目の前が真っ暗”
“悲しみ”

といった印象を受けました。」


「であれば尚更、徳永先生が神様みたいに見えたかもしれませんね。」


「本来、リカさんは明るくて元気な女の子だったと思います。

アイさんが闘病を頑張れたのも、長時間にも及んだバチスタに耐え勝ったのも、

リカさんの励ましがあったからこそだと感じました。

アイさんに似て、
笑顔もキュートでしたしね。」







『神野くん。』


「?・・先生ごめんなさい、
少しお待ち下さい。」


左耳から邪魔が入ったので慌てて断りを入れて2,3歩下がる。


「はい。」


『いつもでしたら私も聞き入ってしまう素晴らしい家族愛のお話ですが、

今回は時間がありません。
徳永先生には要点だけを。』


「現場には現場のペースってもんがあるんだよって言いたいところだけど・・

分かりました。」