そして、自分のことが腹ただしくなって、音羽は乱暴にピアノの上に手を叩きつける。

バーーーーーーン

汚い音が、音楽室中に響いた。



ユールヒェンは次の日、学校に来なかった。次の日も、その次の日も、ユールヒェンは学校に来ない。

「Tut Mir leid.(ごめんなさい)今日も行きたくないって……」

音羽がユールヒェンの家の呼び鈴を鳴らすと、ユールヒェンのお母さんが出てきてそう言った。

「……そうですか」

音羽がうつむいていると、お母さんが言った。

「ユールヒェンが閉じこもってしまったのは、あなたのせいじゃないわ。自分を責めないで。悪いのは、私たち親なの」

お母さんは暗い顔で言った。

「家族全員が音楽家になることを望んでしまった。子どもたちに親のエゴを押し付けてしまった。ユールヒェンは、私たちの望むような音を奏でようとする。でもそれは、あの子の描く世界じゃない。……あの子の才能を、私が奪ってしまったの」