母よ!娘は貞操の危機です!
どうせ母のことだから
“想定の範囲内”とか言いそうで
味方にならないと諦めることにして
「待って!ちょっ、亜樹っ」
これは早いこと護身術を習わないと
捕食されますっっっ
両手で亜樹の身体を押して
どうにか離れると
「今日は勘弁してやる」
・・・は?
どこまでも上からの亜樹を
小さく睨みながら
「倉庫で寝落ちした後のこと」
記憶にない私の移動を教えて欲しくて
今更ながら話を戻した
亜樹は攫われた時のことを思い出すのか時折瞳の中に獰猛な光を灯しながら話してくれた
亜樹にしがみついたまま
泣き疲れて寝てしまった私を
総長部屋のベッドで寝かせた後
街での揉め事があって
見張りを付けて出かけたNightの面々
その隙に理樹さんが来て
私を攫って行ったという
腕っ節に自信のある護衛も
10代目総長のお出ましには
従わざるを得なかったらしい
「私に睡眠薬盛った?」
「あ゛?」
「だってちっとも気付かなかった」
「それは琴が阿呆だからだろ」
「は?」
段々腹が立ってきて
文句を言おうとしたのに
「戻ってみたら琴を攫われた後で」
切ない口調の亜樹の声に
気分を削がれた
「琴・・・」
「ん?」
ゆっくり近づいた亜樹に
逃げろと頭の中で警笛が鳴るのに
動けない私は
亜樹の唇を受け止めた
「・・・っ」
触れては離れる唇
視線を合わせた瞳は
切ない程に揺れていて
心臓が強く音を立てる
「琴」
「・・・」
「好きだ」
一言呟くごとに合わせられる唇から
気持ちが伝わるように熱も伝わる
「琴の気持ちが決まらなくてもキスだけは拒むな」
強い言葉に亜樹の想いが伝わって
否定も肯定もしないまま
近付く亜樹を受け入れた