「どこでどうなったか覚えてなくて」


「あ゛?・・・またかよ」


呆れたようにうな垂れた亜樹さん


だよね・・・
寝落ちで記憶がないとか
どんだけ寝太郎なんだ


「ごめんなさい」


「あぁ」


あ・・・否定してくれないから
攫われたのが私の所為になったじゃん

ちょっとムカつくけど

マンションでの理樹さんと亜樹さんのやり取りが頭から離れなくて

私の所為でもいいかと思えた


「俺な・・・」


唐突にそう切り出した亜樹さんは


「俺が生まれると同時に母親が死んだ」


重くて悲しい話を吐き出した


「・・・っ」


「だから、理樹は俺を恨んでる」


そんな・・・


「だから琴を俺の元から攫った」


違うと思う・・・

でも・・・軽々しく
慰めるなんてできなくて

吐き出して楽になるならと
聞き役に徹することにした


「琴?」


不安に揺れる瞳には
心配顔の私が写っていて


「俺から離れんな」


絞り出すような声に
心が震える


「・・・亜樹さん」


「亜樹だ」


「・・・亜樹」


「敬語もやめろ」


「・・・うん」


「俺が琴を護る
だから・・・俺の側を離れるな」


理樹さんと同じ言葉を
理樹さんよりも熱い眼で
懇願するように囁いた亜樹


「親父が・・・」


「ん?」


「再婚するって吏美さんを連れて来た日に決めた」


そう言うとスマホの画面を表示させた


「・・・っ」


そこには去年の誕生日に
母の友達の店で撮ってもらった
写真があった


「琴が俺のこと・・・
なんとも思ってないことくらい
ちゃんと分かってる」


「・・・」


「双子も番もキッカケで
それで琴が俺を気にしてくれるなら
他に欲しいもんなんてなんもねぇ」