「それでも琴は渡せねぇ」


獰猛な狼の唸りと真っ直ぐ射抜く魔王様
睨み合う兄弟の緊張の糸が僅かに緩んだ瞬間


「来い」


強く手を引かれて亜樹さんの腕の中へ収まった


「キャッ」


「じゃあな」


引き摺られるように理樹さんのマンションから連れ出された私は

抱かれたままマンション前に止められた車に押し込まれると

そのまま亜樹さんの膝の上に乗せられた


「・・・あの」


凄く恥ずかしい姿勢なんですけど・・・

間近の横顔に問いかけてみたのに


「・・・んっ」


目があった瞬間
唇を塞がれた


く、苦しい
と思うより早く

サッと離れた亜樹さん


・・・えっと


ここは抗議するべき?
悩む間にタイミングを忘れ

堂本の家に到着すると
組員さんの出迎えを亜樹さんに抱かれたまま聞いた

恥ずかしいけど
靴がないから

大人しく抱かれていたけれど

流石に屋敷の中は・・・


「おります」


ってか無視?

ドシドシと聞こえる足音と
いつの間にか先導する組員さん

亜樹さんの部屋の前まで来ると
スッと襖が開かれた


そのままソファに腰をおろした亜樹さんと抱っこの私


「何かされなかったか?」


「へ?」


「理樹になにもされてないか?」


「あ、はい。なにも」


「そうか」


頭を撫でる亜樹さんの表情は
さっき見たより穏やかで

少しホッとしたのに


「ったく俺の出かけてる間に勝手に攫われやがって」


なんだか怒りの矛先が私になった模様です