「料理出来るのか?」



おっ!食いついた


「あ、はい、家では私が料理当番だったので」


あの料亭のような料理を食べている理樹さんを満足させるような凄いものは作れないけど・・・


「そうか、それは食べてみたいが」


そう言って徐ろに立ち上がった理樹さんに手を引かれて


カウンターキッチン内の冷蔵庫を開けると


「・・・?」


お酒とミネラルウオーターしか入ってなかった


「キッチンを使ったことがない」


そう言うと
少し肩を落とした理樹さんが可愛くて


「じゃあ今度、買い物に行きましょう」


流し下の引き出しを勝手に開けながら
調理器具を確認したけれど

そもそも使う気がなかったのか?
本当になにも無かった

使われた形跡があるのは
コーヒーメーカーのみ

飲料しか置かない決まりかなにかだろうか?
いや・・・そんな訳ないよね


「彼女さんは料理しないんですか?
あ、全部外食ですか?」


包丁もまな板さえもない
モデルルームのようなキッチンを
パタパタと開きながら
理樹さんを見る


「彼女なんていない
ここに女が入ったのは琴が初めてだ」


「・・・あ、すみません」


なんに対しての謝罪なのか
自分でも分からないけれど

理樹さんの表情が
サッと曇ったことに

口を突いて出た言葉がそれだった


「いや」


頭の上にポンと手を乗せて
笑顔を見せてくれた理樹さんは


「デリバリーにしよう」


ポケットから携帯を取り出すと


「来い」


突っ込みどころ満載の電話をかけた



・・・・・・
・・・



“来い”の電話から3分後


「琴ちゃん、こんばんは」


透さんがクリアファイル片手に登場した