「風邪をひく」


部屋に戻ると
理樹さんがコーヒーを淹れてくれた


大きなソファに座って
正面の水槽を眺める

この高層マンションも堂本の家も
理樹さんの部屋はリラックス効果があるのか

なんだかホッとする


「琴、これ」


理樹さんが差し出したのは


「キーホルダー?」


「いや、ここの鍵だ」


・・・鍵?


どこから見ても小さな丸い形のキーホルダーで

鍵穴には入りそうにない


「基本は生体認証で
これは持ってないと正面玄関の自動ドアが開かない」


バッグに入れておくだけで読み取るらしいこのキーホルダー

鍵だけど鍵じゃない
そんな説明を受けながら


「いつでも来ていい
なんならここで暮らしてもいい」


「へ?」


「慣れない大所帯に逃げたくなったら来い」


ぶっきらぼうだけど
優しい理樹さんの思い遣りに


「はい」


貰った鍵を握りしめた


「ご飯食べに行こう」


「・・・」


困る、困る、困る


稽古の後にシャワーを浴びて
そのまま寝る気満々の部屋着の私を
プリンを食べて連れ出したのは亜樹さんで

そこからここへ来た訳だから
顔も服もイケてない
腫れた目の部屋着ヤロウなのだ!


・・・無理

・・・やっぱ無理


「あの・・・」


「ん?」


「コンビニとかテイクアウトとか」


提案したものの理樹さんが食べそうになくて口を瞑る


「行きたくないのか?」


「いや、行きたくないではなく
これ、部屋着なんです」


胸にネコがプリントされた
モコモコしたパーカーとか
部屋着じゃなきゃ絶対着ないよ?

それに・・・

モコモコしてるけど
ハーフパンツなんて

この寒空の下に出たら
インフルB型にやられるよ?
も一つ言わせて貰えば
靴、履いた覚えないけどね


「先に服買いに行くか?」


いやいや、そうでなくて
出掛ける前提の提案を断る
一撃を放った


「わ、私が作りましょうか?」