「それにしても」


寝室のドアを開ける寸前に
立ち止まった理樹さんは

首を傾けると顔を覗き込んだ


「・・・っ」


近い!近い!
少しでも避けようと上半身を仰け反らせると


「・・・痛っ」


背中が悲鳴をあげた
その様子を見ながら


「クッ、白月にやられたか」


少し笑った理樹さん


繋がれた右手が温かくて
嫌な気持ちにはならなかった

理樹さんがわざわざ立ち止まったのは
泣き腫らした私の顔の酷さだろう

自分でもいつもより視界が狭くて
鏡を見るのが怖いんだから・・・

繋いだ手を引かれて
ドアの外に出ると


「ワァ」


広いリビングの窓の外に
キラキラ揺れる夜景が飛び込んできた


「綺麗」


余程の高さがあるのか
目線の高さに遮るものはなくて

揺れる夜景は足元に広がっている


それに


堂本の家と同じように
大きな水槽が壁際に鎮座していて

ゆったりとした泳ぎを見せているのは
同じ種類の色違いの熱帯魚

リビングにテレビが無い理由が
頷けるほど素敵な空間


「あ、あの」


「ん?」


「見ていいですか?」


ベランダを指差すと


「あぁ」とそのまま窓の鍵を開けてくれた


理樹さんが出してくれたスリッパを履くとベランダへ出る

生まれたての子鹿のように
覚束ない足下に少し笑いながら

手摺につかまると
揺れる夜景を見下ろした