「気に入ったか?」


「はい」


「よく似合ってる」


「・・・っ」


褒められて急に襲ってくる恥ずかしさに

少し俯いた


「もう終わる」


外せない仕事のメールを送るからと
デスクに座った理樹さん
黒いソファで待っている間

デスクトップモニタの隙間から覗く
理樹さんの真剣な表情から

目が離せなくなっていた


「どうした?」


急に合った視線にハッとする

・・・見惚れてました
そんなこと言えない


「あ、い、いや、あの・・・」


挙動不審な私を
然程変わらない表情で一瞥すると
またパソコンに向き直った



・・・



「終わった」


パソコンのモーター音が止まると


「さぁ、行こう」


理樹さんが差し出す手に
迷いなく掴まった


長い廊下を黙ったまま歩く

何度か曲がって着いた所で


「親父、理樹です」


「入れ」


重低音が内と外両方で響いた

手を引かれて入った部屋は
畳なのにソファとテーブルが並んだ
洋風スタイルの部屋だった

壁には大きなテレビ

その上に

鷲、鹿・・・富士山の絵
アイボリーのソファに
パステルピンクのクッション2個

こ、これは・・・
ピンク好きの母の所為か

寛いだ熊の表情を見る限り
ここが熊と母のプライベート空間であることに間違いないはず


「琴ちゃん話があるそうだな」


「あ、はい」


熊の目の前のソファに腰掛けると
理樹さんも一人分離れて隣に座った


「お願いがあります」


そう言って熊の目を一直線に見ると
真剣な顔をした熊が


「何でも言うと良い」


一瞬だけ笑顔を見せてくれた