side 理樹



琴の様子がおかしい


そう気づいたのは巡回三軒目のcachetteに座ってから


“この店で終わるからもう少し我慢してくれ”

それを言うより前に琴は化粧室へ行くと席を立った


それに媚びを売るようにチカが付き添うと立ち上がり

結局声を掛けそびれた




「あの子大丈夫かしら」



隣に座るルリがそう口にして
気付くと琴が席を立ってから10分近く経っていた


「チッ」


苛々する思いを勢いにして立ち上がると
この席に座る誰もが固まった


・・・それよりも、琴


ルリが“あの子”と揶揄ったのは
チカのこと・・・


あれはナンバー2に上がるまでに
裏で色々やってくれたらしい


それも今月で終わる

この街の外れにある店への異動が決まったからだ
もちろん異動なんて[ママ]を手土産に飛ばした上で潰すだけの手間をかけた切捨てに過ぎない


「琴」


化粧室まで歩く足を止めたのは
従業員用のパソコン部屋の前

カンカンと床を鳴らすヒールの音と
チカの叫び声が漏れ聞こえて

間違いなく琴がここに居ると踏んだ

怒りに任せて扉を開けると
扉に凭れていたであろうチカが吹き飛んだ


「琴」


潤む瞳で見上げる琴の手を引いて
腕の中に閉じ込める


華奢な身体は震えていて
それだけでまた胸に痛みが走った


俺は・・・琴に嫌な想いしかさせられないのか?


離したくない気持ちを閉じ込めて
透に琴を任せると



床に倒れたまま俺を睨む
勘違い女の制裁にルリを動かした