「・・・琴っ」



頭の上に乗った手に気づいて顔を上げると
隣に座って少し屈んだ理樹の顔が間近にあった


「・・・っ」


ち、近いよ!理樹!

離れようと背中を反らすと


「・・・悪りぃ」


少し口元を歪めて手を離した理樹

頭の上の熱が急速に冷めて
寂しい気持ちが膨れる

理樹にそんな顔をさせたかった訳じゃない

ただ・・・恥ずかしくて
赤くなりそうな頬に予防線を張っただけなのに


「帰るぞ」


サッと手を引いて立ち上がらせてくれた理樹は

いつもと違ってそのまま手を引いた


そのまま店の入り口で待つママとルリさんの横を通り過ぎる


「理樹、またね」


「あぁ」


短い会話が二人の仲を表しているようで
少し落ち着いたはずの胸が騒つく

店の外に出て車に乗ってからも
少し離れた理樹との距離が埋まることはなくって

私は外の景色ばかり見ていた

理樹のマンションに着くと
何故か透さんが先に入って

いつもは使ってない部屋の扉を開けた


「・・・え」


驚いて立ち尽くす私に
隣に立った理樹は


「琴の部屋だ」


そう言って部屋の中へ入った


堂本の家と同じ家具
白い壁に薄い水色の扉が並ぶクローゼット

その扉の向こうには
理樹が揃えたであろう服が並んでいる


カーテンもこの部屋にとても合っていて素敵なのに


今の私には何一つ気分を上げる要素がなかった