「悪りぃ、今夜は巡回の日でな」



だから付き合ってくれと説明した理樹

いつもより低い声と口調で
“若頭”モードになっていると気づいた


でも・・・巡回ってなんだろう?


もしかしたらこことは別に会社があって見て回る日なのかもしれない

なんて・・・

浅薄に考えた私の思考を
一時間後には呪っているとは知らなかった


繁華街から少し離れた場所で車を降りると和風の建物に入った


「朧月?」


看板を読むと


「先に腹ごしらえな」


理樹に肩を抱かれて店に入ると
着物を着た綺麗な女将さんの出迎えを受け


綺麗な襖絵の並ぶ趣のある部屋に通された


上座に二人、下座に一人
テーブルセッティングが見える

この場合は?隣に立つ理樹を見上げると
迷うことなく上座に座った

じゃあ私は?
こんな時のマナーも知らなくて
眉尻を下げた


「琴はここ」


隣の座布団に触れる理樹

私の不安を一瞬で拭ってくれる優しさに

コクンと一つ頷いて
隣に腰を下ろすと


「これからは必ず隣に座れ」


身体ごとこちらを向いて
頭を撫でてくれる
少し上がった口角を見ながら

また頬に熱が集まるのがわかった


赤面症?絶対そう?
こんなに赤くなるってある?



・・・・・・ゔぅ



それに

心臓が痛い・・・ゔぅ

何故か急に理樹が近くて甘くて

ドキドキが止まらない

このままじゃ

早死にしてしまうぅ・・・ぅ


苦しい


私の心臓・・・頑張って!