長い廊下の突き当たり

大きな扉を開かれて
中へ入ると


・・・誰もいない


机が一つと壁面収納だけの部屋


落ち着いた深い色合いで揃えられたそれらにセンスの良さを感じる

落とされた照明の所為で
人の気配が感じられない


理樹はいつもこんな寂しい所で仕事をしているのだろうか?


と、理樹はこの部屋をそのまま素通りで
もう一つ扉を開けた


「ワァ」


通り過ぎた部屋と対照的過ぎる
茜色に染まる空が目に飛び込んできた


正面一面に広がる大きな窓は
周りのビル群より高い所為か遮るものがなくて

どこまでも続く赤色に目を奪われる

理樹の腕の中から抜け出すと
窓に張り付いた





「・・・綺麗」




それ以外の表現が見当たらなくて

ただただ・・・その色に魅入る





さっきまでの燻る胸の想いも



呆れた自分のこれまでも





この空に全部吸い込まれて仕舞えばいい





惑わされたのは・・・私


いや・・・そもそも勘違い?



恰もそうだと思い込んでしまった

呆れた自分を思い出して

吐き出すように溜息を零した




「琴」



すぐ後ろで聞こえた低い声

落ちる私を包むように匂うのは落ち着くフゼアの香り


名前を呼ばれただけなのに

理樹は私のことを全部理解してくれている気がして


なんだか無性に泣きたくなる


今までずっと一人で大丈夫だったのに


想いは自己完結してやり過ごすのが得策なのに


こんなに簡単に乱された想いは

初めてで・・・厄介



「琴」



二度目の呼びかけは
さっきより低く・・・甘くて


堪えようとした涙が


ポロリと溢れてしまった