ポケットから携帯を取り出して
一番上の着歴をタップした


(どうした?)


今朝と同じ少し焦った理樹の声に
今度は鼻の奥がツンとする



「・・・迎えに来て」

(直ぐ行く)



真っ暗になった画面に



「・・・早く来て」


祈るように零した声は
情けないほど震えていた


帰ったら頭の中を整理してみよう


だって・・・


もう、訳わかんない


理樹に電話しただけでトイレを出ると
重い空気を纏った二人の元へ


普段一緒にいるけれど
あまり話したこともない二人


でも・・・
あの雰囲気に飲み込まれた私を
連れ出してくれた優しさに


亜樹は良い友達を持ったな〜って
単純に嬉しくなった


売店でアイスティーとチョコを買うと


「琴」


外の廊下に優しい目をした理樹が立っていた


「理樹」


ほんの数歩の距離を駆け出して
理樹の胸にトンと抱きついた

背中に腕を回して密着すると
理樹の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ



「どうした?」



同じように背中に回してくれた大きな手が
トントンと揺れる気分を宥めてくれる


何か言わなきゃと思うのに
泣き出しそうな気分は唇を開いてはくれなくて


頭を左右に振ることしか出来ない


そんな私の気持ちを察してくれたのか


「琴はこのまま連れて帰る」


背後の二人にそう言ってくれた理樹


「あ、はい」


返事した大和の声は
ホッとしたように聞こえて


やっぱり私は此処に来ちゃいけなかったんだと思った