少しは嫌がるかと思ったのに
亜樹は黙って頭を撫でさせてくれた


それをいいことに
小さい頃より多めに撫でると
あの頃のように目を細めて口元を緩めた


「聞いてくれ」


一方的だけど今を逃したら
一生言えない気がして


亜樹が生まれる前からの話を
少しずつ言葉にした



俺が望んで望んで叶った願いだったこと

母さんは『とても幸せ』っていつも話していたこと


「俺が亜樹から母さんを奪ったも同然なんだ」


それでも弟が欲しかった身勝手な俺


「っ・・・すまない、亜樹」


堪えていた感情が込み上げてきて
視線を合わせたままの亜樹の顔が涙で歪んで見える


何度も何度も謝罪を繰り返す俺を見ながら


ゆっくりと眉毛を下げた亜樹は



「・・・謝んな」


そう言ってフッと口元を緩めると



ポタポタと涙を零す俺の頭を撫でた


その不慣れな手が愛おしくて
しばらく撫でられた後で
その手をギュッと握る


「兄弟で手握ってると
気持ち悪りぃだろうが」


口は悪いけど表情はとても柔らかい


「折角助けた命だから
大切にしろよ」


あくまでもその口調を貫くつもりみたいで


「あぁ、・・・でも
もう二度と無茶はしないで欲しい」


母さんを失って以来の恐怖


こんな思いはもうたくさんだ




「約束する・・・
・・・兄貴もな」




初めて呼ばれたそれに
また崩壊した涙腺


「泣き過ぎじゃねぇか?」


最後は傷口が痛いと言いながら
盛大に笑う亜樹


そうやって


俺の重しを簡単に解いてくれる亜樹

小さい頃からいつもそうだった

跡継ぎとしての重圧を
避けきれずに固まる俺を


柔らかい亜樹の表情や声が
どれ程救ってくれたことか

頂点を目指す俺に
安らぎと温もりを与えてくれたのは
6つも下の弟だった


「ありがとう、亜樹」


面と向かって言えない恥ずかしい言葉を
今日だけは沢山吐き出して

なん年振りか・・・
お互いの間に聳え建っていた壁を壊して
本当の笑顔を向け合った




side out