side 理樹



少しの時間を作って
亜樹の様子を見舞うために出掛けた

車の中で必要なものがあるかもしれないと
琴にメッセージを送ってみたけど
既読にならないそれに

何も買うことなく病院に着いてしまった


亜樹の病室に着くと


「亜樹さんはお休み中で
お嬢さんは浜田と売店です」


「・・・チッ」


ほらみたことか
買い物なら俺がいくらでも付き合うのに・・・

子供みたいな苛立ちを露わにした所為で

オロオロし始めた行田


「開けろ」


開かれた扉の奥に
眠ったままの亜樹が見えた


ベッド脇の椅子に座って
その姿を見ているだけで

罪悪感が押し寄せてくる

“お兄ちゃん”なのに
弟を守れなかった・・・


母さんの命を削ってまで欲した弟を
俺が消してしまうところだった



いつの頃からか
全てを斜めに見るようになった亜樹

そんな亜樹を放って置いたのは
成長と共にちゃんと向き合ってくれると信じていたからなのに


琴が絡んだ時


亜樹の挑発に乗ってしまった


・・・お兄ちゃん失格だな


たった一人の弟を守れない兄貴なんて
“お兄ちゃん”の資格はないな


素直になれば済むはずなのに


亜樹が怪我をしてはじめて
一歩踏み出す勇気が出るなんて


少しのため息を吐き出すと
昔のように亜樹の頭を撫でた


「・・・っ」


同じタイミングで目を覚ました亜樹は
俺の行動に驚いたようで

一瞬細められた目がゆっくりと開かれた


「・・・すまない、亜樹」


「・・・」