side 亜樹


いつからだろう・・・


“お兄ちゃん”と呼ばなくなったのは・・・


いつからだろう・・・


全てが反目に思えるようになったのは・・・





・・・・・・
・・・




6つ年上の“お兄ちゃん”は
いつも俺の憧れだった


小さい頃から


『男は簡単に泣くな』


そう言っては頭を撫でてくれた

迷う先に必ずいて

色んなことを教えてくれる

いつも家に居ないお父さんに代わって
いつも側に居てくれた優しい存在

それは・・・
いつしか“憧れ”という名の
道しるべのようになり

お兄ちゃんの真似をすることで
その背中に追い付こうと必死になる

そんな毎日だった





俺には母さんがいない

正確には
俺を生むとすぐ亡くなったそうだ

それを詳しく知ることになったのは
白夜会のパーティだった


小学校に上がりたての俺は
背の高い大人の間でとても退屈な時間を持て余していた

こんな日に限って大和は一時間遅れるらしいし

蝶ネクタイの付いた服は窮屈

お兄ちゃんは中学生なのに
スーツを着て大人の中に居た


「・・・つまらねぇ」


目の前に並ぶ料理は
もう見たくもない程食べ尽くしたし

どっかの組の知らない女が


「「「亜樹様〜」」」


なんて付きまとうから
イライラしかしねぇ

そんな俺の気分を更に逆撫でする出来事が起こってしまった


「私、亜樹様の婚約者になっても
いいわよ?」


勘違い女は同じ小学生らしいが
何を塗ったのかピカピカの口から吐き出す言葉は

全て上からで一々カンに触り

抑えられない感情が渦巻いてくる

それでも・・・


『女に手を上げるのは最低な男のすること』


お兄ちゃんの教えに反する・・・

だから我慢していたのに


「ママに聞いたけど
堂本の姐さんは
無理して亜樹様を生んだから
死んじゃったって」


「・・・っ」



胸の中を渦巻いていた感情が
黒く塗り潰され

目の前が真っ暗になった


「テメェ、ぶっ殺してやる!」


「キャーーーーーーー」