「いい?絶対ここから動かないで」


透さんは何度も念押しすると
さっきの駐車場の隅へと低い姿勢で走り出した


何か・・・悪いことが起こる気がする


動くなと言われた筈なのに待っていられない馬鹿な私は


「近づかなきゃ大丈夫」


遠巻きに眺めれば良いと
さっきの車の停まる位置が見える場所へと移動した


丁度いいことに駐車場にある大きな支柱の陰に隠れ覗き込む


「・・・っ」


フルスモークの黒いセダンの周りには黒っぽい服の厳つい集団が居て

その中に


「・・・理樹」


恐ろしい表情の理樹も居た


そして・・・


その周りを囲むように並ぶのは透さんを始め見知った顔


「・・・っ!」

更に


その渦中に飛び込む勢いの


「亜樹」


それに大和と永遠も

会いたかった三人だった


もっと近づきたいのに
次々と黒い集団を囲むように集まる黒塗りの車

そこから降りてくる度に大きくなる集団

彼ら全てがあの外国人に向けられている訳ではなく

明らかに異質な集団を隠しながら近づけないよう外へ向けて立ち塞ぐ人もいる


ーーーーーーー誰か助けて


背中に走る嫌な予感に何も出来ないちっぽけな自分

そして・・・

黒い集団から怒号が飛び交い始めた


何が起こっているのか・・・


不利なのはどっちなのか・・・


もどかしい思いだけが乱れる


そして
唇を噛みしめることしか出来ない

そんな私の耳に飛び込んできたのは


「車出せっ」


怒りよりも悲しみを纏った理樹の声だった