side 理樹
琴を俺のマンションへ連れて来て数日
身体は日に日に良くなってきてるのに
気がつくと水槽を眺めては小さくため息を零している琴
生まれて初めて絶望の淵に立ったんだ
言葉で言うように簡単に割り切れるものじゃない
琴を呼び出した女達も
琴を襲った奴らも
琴の病院へ見舞う前
亜樹が動くより先に俺が自らの手で制裁を下した
誰であろうと琴を貶める奴は容赦しねぇ
。
ソファに座る琴を抱き寄せると躊躇いながらも背中に回される手
俺の胸にオデコをつける琴が堪らなく愛おしい
「大丈夫だ」
何度も何度も頭の天辺に言葉を落としては口付ける
「・・・うん」
オデコをつけたまま頷くから
揺れる髪からフワリと香る甘い匂いに抱きしめる腕に力が入る
「・・・理樹、潰れる」
「あぁ、悪りぃ」
ほんとは全然悪いなんて思ってない
俺の胸が琴の居場所になるように
俺の匂いに慣れてしまうように
俺の匂いが移るように
ワザと力を入れて腕の中に閉じ込めている
でも・・・
琴は・・・
俺を見ながら・・・
亜樹のことを思い浮かべている
そんなことは此処に連れて来た時から分かっていたこと
それでもいいと・・・
俺の籠の中に閉じ込めたままの琴と
同じ時間を過ごしながら
初めて知る痛みと・・・
今日も向き合っていた
・
琴の手料理を食べた直後に
焦った様子で電話をかけてきた透
(大和からの報告が上がってる
それと西から会いたいと連絡がきた
多分、どっちも同じ案件)
「あ゛?」
白夜《うち》のシマで東南アジアからのブツが流れている
その情報を掴んだのはニノ組
深掘りさせる為に大和を動かしたけれど
・・・大澤か
早急にカタをつける必要があるのに
目の前で動く琴を見ていると決断が鈍る
曖昧な返事の俺を急かし続ける透
「あ゛?・・・あぁ、それ・・・どうにか・・・うん」
少しだけ・・・
少しだけなら平気だろう
琴に念押しするとマンションを飛び出した