「あ゛?・・・あぁ、それ・・・どうにか・・・うん」


彼此10分は微妙な返事しかしない電話を続けている理樹が


途中何度か私を見ては顔を背けた


・・・ん?


私と何か関係あるのだろうか?


微妙な返事の先が分からないだけに
視線を合わせてはいけない気がして


食卓テーブルの上から空いた皿を片付けることにした


食器の音を立てないように食洗機にセットするとスタートボタンを押す


動きだすモーター音に理樹の声が消された



コーヒーを用意しようと冷蔵庫の中の豆を手に取った時


「琴」


背後に重低音が打つかった


「・・・?」


顔だけ振り返ると


「少し出てくる、直ぐもどるから・・・」


「あ、うん」


そもそも忙しい理樹が家に居ることの方がおかしいのだ。反対する理由もない



「何か必要なものがあれば・・・」



そう言いながら顎に手を当て視線を外し思案する仕草になったけれど



「いや、帰ってから考えよう」



すぐ向き直ったから本当に直ぐ帰るのだろう



「じゃあ、本でも読んでる」


「あぁ」



リビングの棚には退屈だろうと
透さんが買ってきてくれた推理小説が並んでいる


たまたま理樹と賞レースのテレビを見た時にそんな話になったのを覚えていてくれて
透さんに頼んでくれたからだろう



「良い子で待ってろ」



スーツに着替えた理樹は若頭のオーラを纏っていた



「いってらっしゃい」



その背中を見送りながら



・・・今なら外に出られる



そんなことを考えてしまった