「理樹・・・仕事は?」


「ん?大丈夫だ」


理樹のマンションに住むようになって3日

理樹は一歩もこの家から出ていない


“若頭”って暇なの?
って最初はそう思ったけど


“若頭”とは別に会社の“社長”って肩書きも持っている理樹


何度も何度も透さんから入る電話と
パソコンを片時も離さないから


絶対にそんな訳ないはず


甲斐甲斐しく世話を焼いて
トイレまで抱っこだった2日目


もちろん寝る時も一緒で


スッカリ私も理樹の匂いになってしまったよう

この落ち着く匂いはフゼアらしい

説明してくれたけど香水のことはよくわからなくて
私の中で“安心する香り”になった


今は膝の痛みも少なくなったから
理樹の目の届く範囲で歩いている



・・・このままじゃいけない


理樹と二人きりでは乗り越える壁がない


そう思うのに



「一生ここに居ても良いんだ」



焦ることはないって何度も言う理樹


でも・・・


そう言われるたびに


頭に浮かぶのは亜樹のことで・・・



あの日スマホを忘れた私は
スマホを手にすることなく連れ出されたから


今頃教室なのかな?
それとも、カバンと一緒に持って帰って貰えたかな?


亜樹と会うにしても連絡を取る術がない


初めてここに来た日は
凄い形相で迎えに来てくれた亜樹


でも・・・


今回は顔も見せてくれない


私があんなに震えたから傷つけてしまったんだろうか


最後に見た亜樹の顔を思い出すだけで胸が苦しくて


傷む胸を誤魔化すようにキッチンに立った