side 亜樹



「何故だ!」


朝食の後で親父から呼び出された俺は


「暫く琴を理樹の家で預かる」


1ミリも納得いかない話を聞かされた


「琴はここが家だ」


「だがな亜樹、ここは男が多い」


渋い顔の親父の気持ちも
分からない訳じゃねぇ


「だからって遠ざけて治るのか?」


「今は少し、心も身体も休ませてやりてぇ」


本当の娘のことのように心を痛めている親父

隣に座る吏美さんも


「最後まで奪われた子も見てきたけど
周りが思うより、ここは・・・簡単じゃないの」


そう言って胸に手を当てた


「琴はそこまでじゃないけど
生まれて初めて恐怖と絶望を味わったはず
だから・・・少し静養させたい」


ゆっくり諭すように話す吏美さんの
言葉が胸に刺さってきて

納得いかないけど・・・


「少しだけだ」


そう言って奥歯を噛み締めた







長い廊下を歩きながら
琴のために貼られたテープが目に付く

琴なりにここに慣れようとしてくれていた

一見、感情の掴めないクールな女
だけど・・・
俺からすれば百面相の琴

たった一晩いないだけで
こんなにも寂しい



琴・・・

もう二度と

同じ目には遭わせない


だから・・・


俺の腕の中に戻ってこい





「クソっ」





琴の居ない部屋に戻るのが嫌で
方向転換すると玄関へ


クロークに並ぶ靴の中から
いつもの靴を手に取ると

視線の先に水色の棚

家にいると何度も
琴が居ないのを思い知らされる


「亜樹さん!」


追いかけてきた星吾に


「車を回せ」


その現実から逃れるように外へ飛び出した



side out