「私、今夜は付き添うね」


優羽はいつ持って来たのか
小さなトランクを持ち上げてみせた


どうやら3人掛けのソファはベッドになるようで

母の先輩で看護師長の
岡部加奈子《おかべかなこ》さんがあっという間に組み替えていた


「大丈夫?」


「痛い」


「だよね〜」


そんなわかりきったくだらないやり取りを何度も繰り返して
少しずつ笑えるようになってきた


広い個室にはお風呂もミニキッチンもある

テレビは大型でいつでも見放題
カーテンは自動だし
ミネラルウオーターサーバーもあって素晴らしく快適


母から聞いたところによると
熊がこの個室に入院した時に母と出会ったらしい


「・・・贅沢」


病院に贅沢なんて必要ないと思うけど
壁の白さが妙に不安を駆り立てるから

これくらい揃っている方が良いのかもしれないと思った


トントン
ドアがノックされたのは
19時の面会時間を過ぎた頃


「はい」


優羽がドアを開けると大きな花束が立っていた


じゃなくて


そこから顔を覗かせたのは


「理樹さん」


私の呟きと同時に

優羽が


「すみません、今日は・・・」


夕方、亜樹たちを見て震え始めた私の身体のことを理樹さんに説明する


「琴」


名前を呼んで一瞬顔を歪ませた理樹さんは

優羽が止めるのも聞かず

カツカツと靴を鳴らして近づくと
ベッドに座る私を抱きしめた


「よく我慢したな」


偉かったぞとキツく抱きしめる腕に
感情が込み上げてきた



「・・・怖かった」


「護ってやれなくてごめん」


「『何の抵抗もせずにヤラレるより堂本の娘として最後まで戦え』
って理樹さんの声が聞こえたっ」


「あぁ、よく頑張った」



理樹さんの香りに包まれながら


触れられた感触が蘇ってくる


「・・・気持ち、悪、かった」


「・・・」


「ベタ、ベタ触れられて・・・汚れ、たっ」


「琴は汚れてなんかいねぇ。綺麗なままだ」


「・・・っ」



心を落ち着かせる重低音が心地よくて
理樹さんにしがみついて泣きじゃくった