「本当に偶然だったんだけど、美嘉は取引先の娘だった。それで美嘉が大学を卒業したら結婚するために、早くから見合いして、ふたりを引き合わせたそうだ」

「………」

「形としては、政略結婚だ。でもそんなの関係なく、兄は美嘉を本当に愛していたし、美嘉も兄を大切に想っていた」

「………」

「そこに俺の出る幕なんかないだろ。だから諦めたんだ」

「………」

「でも、俺たちが大学を卒業し、兄の仕事も落ち着いて、結婚の準備に取りかかっていた時、悲劇が起きた。兄は事故で死んだんだ」


結婚前の、一番、幸せな時に、美嘉さんは最愛の人を失った。



「それから3年経った時、今度は俺に、政略結婚の話が持ち上がった。相手は美嘉だった」


慌てて美嘉さんの名刺を確認する。

名字は、山城。


お父様が言っていた相手の名字と同じだった。



「両家の親は、兄が死んで3年経って落ち着いたし、どうにかもう一度、強い結び付きをと考えたんだろう。でも、冗談じゃないだろ」

「………」

「美嘉の気持ちはどうなる? あいつは、神藤家の人間なら誰でもいいわけじゃない。兄を愛してたんだよ。何年経とうが、それが消えるわけじゃない」

「………」

「何より、俺だって、常に俺の後ろに兄を見ている美嘉と、ずっと一緒に暮らすなんて、生き地獄だ。上辺ではうまくやれたって、それは絶対に、本当の幸せなんかじゃない」