傷。

言われて再び自らの手の平に目をやる。



「こんなの平気だよ。ちょっと突き飛ばされただけだし」

「は?」

「一発くらい殴られる覚悟だったんだけどさぁ。そしたら騒ぎが大きくなるし? でもこんな程度だったし」

「バカ野郎! 殴られてたら、最悪、打ちどころが悪くて死んでたかもしれないんだぞ! ほんとにお前は何やってんだよ!」


今まで聞いたことがないくらいの、神藤さんの怒声。

まさかこんなに本気で怒られるとは思わなかった。


神藤さんは、苦虫を噛み潰したような顔。



「帰るぞ。説教はそのあとだ」


お説教かぁ。

別に悪いことしたわけじゃないのにと思いながらも、黙って神藤さんの腕に引かれる。


ここは大人しく帰るしかないなと思っていたら、美嘉さんが私たちを制した。



「待って、柾斗!」


声に、神藤さんの足が止まる。



「この子が例の、柾斗が結婚した相手ってことよね?」

「あぁ」

「こんな場で言うのもおかしいけど、おめでとう。誰よりも柾斗の幸せを願ってる」


誰よりも。

このふたりがどんな関係なのかはわからないけれど、でも私は完璧に蚊帳の外にいるような、惨めな気分になった。