どうにか食事を終えて、帰路を歩く。



「あのふたりの相手は、仕事より疲れる」


それは、確かにそうだと思う。

けれど、同時に、ご両親から愛されている神藤さんが羨ましいとも思った。



「新店舗、どうだった?」

「まわりに競合店がないから、初週の売上は予測より多かった。あとはどれだけ固定客を掴めるかって話で」

「盛況だったんだ? よかったじゃん」

「あぁ。おかげで俺も、久しぶりにフロアに立ったよ」

「マジで? 神藤さん、副社長なのに接客もすんの?」

「店長やって、エリアマネージャーやって、今の副社長だ。正直、俺としては、無意味に出世するより店舗で働いてる方が楽しいんだけどな」

「でも現場のこと知ってる人が上に立ってくれた方が、下の人は安心だよね」


私の言葉に、神藤さんはふっと笑みを向けてきた。



「お前みたいなこと言ってくれるやつばかりが部下だと、色々とやりやすいんだけどな」


社長の息子で、とんとん拍子に出世した、若い副社長。

私が思うよりずっと、神藤さんは大変な中で働いているのかもしれない。



「ねぇ、神藤さん。何か辛いことあったら、ちゃんと言ってね? 私は聞くことしかできないけど、それでもひとりで溜め込むよりはマシだと思うし」

「だから、疲れた時は疲れたって、ちゃんと言ってるだろ」