夜になる頃、玄関先からチャイムが鳴った。
誰だろうかとドアを開けると、「よぉ」と顔を覗かせたのは、高峰さんだった。
「久しぶりだな、杏奈ちゃん。ちょっといい」
「あ、うん。どうぞ」
部屋に招き入れる。
「神藤さんならそのうち帰ってくると思うけど」
「今日は杏奈ちゃんに用があってね」
「私に?」
首をかしげた私に、高峰さんはカバンから書類を差し出した。
目を落とす。
「こっちが元カレの件ね。被害届を出しておいたから、本人が見つかったら警察から連絡がくるよ」
「ほぇー」
「で、こっちがアパートの件。他の住人たちと一緒に、集団訴訟を起こす準備をしてる。これには時間がかかるから、まぁ、気長に待っててもらいたいんだけど」
書類は難しい用語ばかりで、私には正直、内容はさっぱりだった。
でも、高峰さんに任せておけば安心だと思った。
「ほんとにすごいね、高峰さんって。頭いいんだね」
「仮にも弁護士だしな」
「頼りにしてるよ」


