「3歳上の兄は、俺にとっては憧れだった。勉強も運動もできて、その上、まわりのみんなから慕われてて。温厚で、優しくて、俺はそんな兄が大好きだった」

「………」

「兄が死んで、俺が会社を継ぐことになった。だけど、どう頑張ったって兄のようにはなれない。気ばかり焦っているうちに、兄の年に追い付いてしまった」


神藤さんの、人前での仮面は、お兄さんを意識したものだったのだろう。

亡くなってしまった人を越えることはできないからこそ、神藤さんは苦しんでいる。



「人は、何をどうしたって誰かの代わりにはなれないよ」

「そんなのわかってる」

「だったら、神藤さんは神藤さんらしくしてたらいいじゃん。それで足りない部分は、私がフォローするからさ」


私の言葉に、神藤さんはひどく驚いた顔をして、でも次には「あははっ」と声を立てて笑った。



「お前は本当におもしろいやつだな」


相変わらず、神藤さんの爆笑のポイントはわからない。

でも、笑っているならいいのかもと思い直す私。


神藤さんは、笑いを引きずりながら、そんな私の顔を見た。