帰宅して、上着をソファに投げた神藤さんは、冷蔵庫から取り出した缶ビールのプルタブを開け、勢いよくそれを流し込んだ。
どうしたものかと立ち尽くしていたのだが、そんな私をため息混じりに手招き、神藤さんはやっと口を開いてくれた。
「聞きたいなら聞けばいいだろ」
「だって、言わなかったってことは、聞かれたくないことなのかと思って」
「別に隠してたわけじゃない。みんな知ってることだし。いちいちお前に言う必要がなかったってだけだ」
それはまぁ、そうなのだろうけど。
「お兄さん、何で亡くなったの?」
「3年前に、事故で」
「交通事故?」
「あぁ。兄が横断歩道で信号待ちをしていたところに、飲酒運転の車が突っ込んできたんだ。酒の所為で判断力が鈍ってた上に、その日は雨で路面が濡れてて、ブレーキは間に合わなかったらしい。兄は即死だったそうだ」
「運転してた人はどうなったの?」
「逃げてたけど、目撃者が車のナンバーを覚えててくれてて、警察に捕まった。それから裁判で危険運転致死傷罪が適用されて、今は服役中だ」
『罪を犯したやつは償わなきゃいけない』と、神藤さんは言った。
その言葉の重みを、今更知る私。
神藤さんは、息を吐いて宙を仰ぐ。


