昨日、あれだけ泣き腫らしたと思っていたのに、なのにまた涙が溢れてくる。

梨乃はそんな私を抱き締めてくれた。



「昨日は堕ろした方がいいなんてひどいこと言ってごめんね」

「梨乃ぉ……」

「もしも杏奈に何かあったら、子供は私が育ててあげる。だから、心配しなくていいよ」


梨乃はそう言って、私にティッシュを差し出した。



「ほら、あんたもうお母さんなんだから、泣いてばっかじゃダメだよ。笑ってなよ」


背中を叩かれた。

私は涙を拭って鼻をかむ。



「ありがとう、梨乃。高峰さんも」


涙混じりに笑う私に、ふたりは声を揃えて「どういたしまして」と、言った。

梨乃は笑いながら立ち上がる。



「さーて、お腹空いたから、何か作るよ。この前、大量に買った野菜が、まだ残ってるの。みんなで食べようよ。食べなきゃ元気も出ないでしょ」


腕まくりする梨乃を見て、何だか私よりお母さんらしいなと思った。



「手伝うよ」

「バカ! 妊婦は安静にしてなきゃダメでしょ!」

「何言ってんのよ。そんなんじゃあ、日常生活も送れないよ」

「あ、そっか。じゃあ、鍋にお湯沸かしといて」

「了解」


ふたりでキッチンに立つ。

梨乃と一緒に料理するのは、私の退院パーティーの日以来だった。


あの時は、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったけれど。