気付けばそれが、言葉になっていた。



「私ね、今、すごく幸せなの。こんなに毎日を楽しいって思ったこと、今までなかったの。だから」

「そうだよな。よくわかるよ。辛かったことなんて、できれば思い出さない方がいいよな。今が幸せなら、特にそうだ」


目を伏せて言った、高峰さん。


高峰さんも、もしかしたら、何かを抱えている人なのかもしれない。

だけど、安易に人の傷に触れるべきではないと思い直し、私は言葉を飲み込んだ。



「じゃあ、元カレに、示談の件を話してみるよ。俺に任せといて」

「ありがとう、高峰さん」

「いいんだよ。まわりに頼るのは悪いことじゃないし、そのための弁護士だ。まぁ、本音では杏奈ちゃんと一発ヤリたいって思ってるけど、さすがに神藤に殺されそうだから、感謝だけ受け取っとくよ」


高峰さんらしくて、笑ってしまった。


きっと、傷のない人なんていないのだろう。

問題は、その傷を抱えて、どう生きていくかだ。



「高峰さんも、何かあったらいつでも頼ってね。って、私は役に立てないことの方が多いと思うけど」


私の言葉に、高峰さんは「ははっ」と笑い、それには応えず、



「神藤と仲よくな」


と、言い残して、先に席を立った。



外は雨。

だけど、私はうつむかない。


今を大切にして、生きていきたいから。