「そこで、思い付いたんだ。お前と結婚したことにして、1年くらいで破綻させればいい、と。そしたら俺の性格に問題があるんじゃないかってことで、しばらくはまわりも静かになるはずだろ?」

「………」

「もちろんほんとに籍を入れたりはしない。いちいち人前で身分証を提示するわけでもないんだから、そんなのそうそうばれないだろ」


それで偽装結婚ってことか。

いや、でも、しかし。



「ねぇ、その前に疑問がいっぱいなんだけど」


私は神藤さんの言葉を遮り、頭に思い浮かぶままに聞く。



「政略結婚って会社の利益になるんでしょ? それを投げ出していいの? っていうかさ、何で私なの? 神藤さんはいいかもしれないけど、それをすることによる私のメリットって何?」


思わず早口になっていた。

でも神藤さんは、今度はひとつひとつ、ちゃんと私の疑問を解消してくれる。



「相手の家柄に頼って会社が大きくなったって、俺は肩身が狭くなるばかりだ。家で息も抜けない生活が、何十年も続くんだぞ? 耐えられないだろ。それより俺は、自分の実力で勝負したい」

「まぁ、気持ちはわかるけど」

「それにお前はまず、顔とスタイルがいい。おっさんの相手は慣れてるし、話してて思ったけど、社交的で愛想もいいから連れて歩くには完璧だ。何より、言い方は悪いが、身寄りがないのも面倒が少なくてありがたい」


確かに、接客だと思えば、誰の相手でもできる。

誰かにばれる心配を考えれば、私に家族がいない方が簡単だというのもわかる。


少しだけ納得した私に、神藤さんはダメ押しの言葉を告げた。