わからない。

全然、わからない。



「それなのに、何でキスしたのよ」

「欲望に負けた」


開き直ったように言い放った神藤さんの言葉に、思わず私はコケそうになった。

もうちょっとこう、ときめくような理由がほしかったのだけれど。



「仕方ないだろ。したいと思っただけだったのに、気付いたらしてたんだよ。あの瞬間、俺の方が何が起こったのかわからなかったぞ」


何だ、それ。

私はため息を吐いた。



「私のどこが好きなの」

「顔」

「は?」

「俺の隣で楽しそうに笑ってるとことか、うまいもん食って嬉しそうにしてるとことか、そういうふとした時の顔が好きだと思う。あとはバカな上に異様にポジティブなのも」

「だからそれ、悪口だってば」


結局はいつも通りの返しになり、私は力が抜けたように笑ってしまった。

神藤さんも、諦めたように笑う。


私は宙を仰いだ。



「私ね、事故に遭った時、すごく痛かったし、怖かった。けど、目が覚めた時、目の前に神藤さんの顔があって、ほんとに安心したの」


神藤さんが、きちんと自分の気持ちを伝えてくれたのだから、私もちゃんと話すべきだと思ったから。



「私も、ずっと神藤さんのこと好きだと思ってたよ」