それから他にも指名客がきたので、しばらく別の卓をまわっていたら、神藤さんは延長せずに帰ることにしたらしい。
おまけに、すでにチェックも済ませていた。
「ちょっ、神藤さん!」
これにはさすがの私も慌ててしまう。
「今日は私が奢るって言ったのに」
「気晴らしにきただけだって言ったろ? 別に最初からお前に奢ってもらおうなんて思ってない」
「でも、それじゃあ」
それじゃあ、私の気が済まない。
と、思った私の思考を読んだみたいに、神藤さんは少し考えるそぶりを見せたあと、言った。
「なら、終わってからちょっと時間あるか?」
今日はアフターの予定はない。
「うん。大丈夫だけど」
「じゃあ、あとで」
神藤さんは、待ち合わせる店の名前だけを告げて、私に背中を向けた。
本当に、よくわからない人。
でも悪い人だとは思えないしなぁ。
首をかしげながらも、もうこうなったらとことんまで付き合うかと思い直し、私は指名客の卓に戻った。


