約束通り、ケーキを食べ終えて、私たちは車に戻る。
街路樹は青々と茂り、街の色を明るくしていた。
「ちょっと見ないうちに、すっかり桜も散ったねぇ」
「だな」
「京都で見た桜、すっごい綺麗だったよねぇ」
「俺はお前が迷子にならないか心配で、正直、桜どころじゃなかったけどな」
「えー? ひっどーい」
ふたりで笑う。
でも私たちは、来年また一緒に、京都に桜を見に行こうとは言わない。
気付けばこの関係も、残り半年。
「あ、そうだ。忘れてた」
そこでふと、思い出したように言った神藤さんは、車の後部座席を探る。
そして手にした紙袋を、私に渡した。
「何?」
「誕生日プレゼント」
「えっ」
いきなりのことに、私はひどく驚いた。
「来週だろ? 誕生日。でも俺、明日から当分、忙しくて、当日は祝ってやれるかわかんないから、今のうちにと思って」
「私の誕生日、覚えてたの?」
「当たり前だろ。最初にお前が書いたプロフィールは、すべて暗記してる」
でも、だからって、私はただの、偽装結婚の相手というだけなのに、それでプレゼントまでくれるなんて。
私は、紙袋を持ったまま、固まった。


