ちょうどランチタイムで、そのカフェは、人が多かった。

どうにか席に着き、注文を終えて、ほっとひと息つく私たち。



「賑わってるお店だね」

「少し前にオープンした店なんだ。一度、どんなもんか確かめにきたかった」


煙草の煙を吐き出しながら言う神藤さんの言葉に、私はがっくりと肩を落とす。



「何それ。ほんとはライバル店の市場調査したかっただけ?」

「当然だろ。俺ひとりで入るより、お前と一緒の方が自然だし」

「こんな時でも仕事のこと考えてんの?」

「俺は仕事のため。お前も甘いものが食える。どっちにとってもメリットがあるからいいだろ」


久しぶりに一緒に出掛けられたと喜んだ私の気持ちを返せと言いたい。

しかし、そんなことを言えるわけもないので、私はぐっと我慢する。


神藤さんはブラックコーヒーを一口飲み、「コーヒーの味はいまいちだな」と言った。



「でも、うちよりメニューが豊富だな。値段も手頃だし。これなら客が多いのもわかる」


言いながら、神藤さんは、私なんかそっちのけで、メニュー表を写真に収めていた。

私は、その様子を、頬杖をついて見る。



「ねぇ、神藤さんにとって、仕事って何?」

「何よりも優先したいもの、かな。仕事を取ったら、俺は他に何もない」

「それって楽しいの?」

「楽しいよ。うまいもん食いながらみんなが笑い合える場を提供できるのは、幸せなことだと思う。それに気付けたのは最近だけどな」