その勢いのまま、ふたりで乾杯する。

神藤さんにまた怒られるかなと思ったけれど、でももう、ここまできたら、なるようになれという気持ちだ。


グラスの中身を豪快に流し込んだ美嘉さんは、至福という顔だった。



「やっぱ昼間から飲むビールが一番の贅沢よね」

「おっさんですね」

「こんなんだから、ずっとカレシもできないんだけどね」


カレシ。

その単語に思わず反応してしまい、それが顔に出てしまった。


美嘉さんはグラスを置いてふっと笑った。



「柾斗から聞いてる?」

「はい。一応」


まさか、美嘉さんの方からその話題を振ってくるとは思わなかった。

私は、何を言えばいいのかもわからない。



「私ね、未だに優斗のことが忘れられないの。まわりは心配してくれるけど、本当は私自身が、優斗を忘れることが怖いのかも。忘れたら優斗が生きてたことが消えてしまう気がして」

「………」

「それに、優斗の代わりに柾斗と結婚するなんて、柾斗に失礼だよ。私は、きっと、柾斗を愛してあげられないから」


ビールが沁みる。

おかげで、昨日の傷が、思い出したように疼き始める。