場所は、イタリアンレストラン店だった。

せめて、もっと庶民的なところがよかったのに、その所為で余計に緊張する。



神藤さんの想い人。

で、神藤さんの亡くなったお兄さんの、婚約者だった人。


そんな人と、私が、ふたりきりで会ってどうなる?



「杏奈さん! こっち、こっち!」


店に入るなり、目を引く美人がこちらに向かって手を挙げた。

私は曖昧にしか笑えないまま、会釈して向かいに座る。



「よかったぁ、元気そうで。あれからどこか痛んだりしない? 時間が経ってから症状が出てくることもあるって言うじゃない?」

「大丈夫です」

「それにしても、あいつら、私みたいなおばさんをナンパしてどうするつもりだったのかしらね。ナメられたものよねぇ? 鏡見てから出直せっての」


一気に喋る美嘉さんのテンションには、相変わらず、ついていけない。

私は、美嘉さんという人のことが、まるでわからなくなった。



「あ、何でも頼んでね? 遠慮しないで。そうだ。お酒飲める? 一緒にビール飲もうよ」

「まだお昼ですよ?」

「いいの、いいの。今日は何やってもオッケーな日って、私が今決めたの」


すごい人だなと思う。

私は、断ることもできないまま、適当に目についたメニューと、ビールも注文した。