「別に俺だって、誰でもよくてお前を選んだわけじゃない。それに、一緒に暮らしてて、それなりに情もある。だから、お前が傷付けられるのは許せない」

「わかった。ごめん。これからは気を付ける」


私の言葉に、神藤さんはふっと笑ってから、救急箱を片付ける。

私は、絆創膏の貼られた手の平を見た。



「まだ痛むか?」

「そんなんじゃないけど」

「これに懲りたら少しは大人しくしとけ」


美嘉さんは、お金持ちの娘で、美人で、知的な感じだった。

対して、私は、どうにか見た目だけ取り繕っているに過ぎない。


張り合うつもりはないけれど、でも虚しくなる気持ちは拭えない。



「ねぇ、美嘉さんに連絡しなくていいの?」

「何で」

「だって、私はああいうこと、キャバで慣れてるけど、美嘉さんは絶対、怖かったと思うよ」

「中途半端な優しさをかけられるのは、あいつが一番、嫌うことだ」


そんなものなのだろうか。



結局、神藤さんは、今、美嘉さんのことをどう思っているのか、明言しなかった。

でも人の感情は、いつも必ず、白黒つけられるわけじゃない。


痕(あと)になって残ってしまった傷は、いびつに歪んだまま、消えないのと同じように。