「・・・で?そのお前は、確実にその言葉を聞いたのだな?」


 スサノオウの前には、門番がかしずいていた。


 元々位が低い門番。


 このようなことがなければ、王との謁見なんてある分けないため、緊張しているのが、見るからに分かった。


「はい『川に銀を流し込んだ。このまま、この国の民の命を奪ってやる』・・・と、確実にもうしておりました。」


 人の耳と言うのは、いかにも都合よくできているものである。


 相手が『妖術使い』と信じて疑わなかった、門番にとって、オロチの言葉はこのような形でしか伝わらなかったのだ。


「・・・・・・・・王、どう思われますか?」


 ワノスケの言葉。


「どうもこうも・・・多少の銀を流し込んだぐらいではな・・・まぁ、調べてみる価値はあると思うが・・・。だが、民から魚を奪うなど・・・。」


 肉も手に入るが、はやり魚は貴重な食料の一つだ。


 それを奪うとなると、食糧不足・・・しいては、飢餓の危険だって出てくる。


 それだけは避けたい。


「して、その妖術使いの名は?」


 とりあえず、門番に尋ねてみる。


「はい。ヤマタノオロチ・・・そうもうしておりました。」


 正確には『オロチ』なのだが、八又の蛇の印象が強すぎるため、勝手に脚色された名前。


 だが・・・それでも・・・・・。


「八岐大蛇とは、また、恐ろしい名を・・・!」


 驚くワノスケの言葉は頭に入ってこなかった。


 スサノオウの頭にあったのは、たった一つ。


「ヤマタノ・・・・・・『オロチ』・・・・・・?」


 それは、母の名、父の名・・・そして、師の名・・・・・・。