暗鬱な君に花束を




「誘惑って……別に本当のこと言っただけだし」


心底迷惑そうに顔を歪める雨月くんと、ちょっと拗ねてしまったような眺。


でも私は、それどころじゃなくて。


眺の匂いが間近でして。雨月くんはやっぱり、あれを“本当のこと”なんて言うし。


当然、私は顔が熱くなってしまう。


「それでもー。雨月はモテるんだから、軽々しくそういうこと言ったらダメでしょ」


「軽々しくないし。それにこんなこと、美羽にしか言わない」


…それは、雨月くんが普段仲良くしてる女の子が私と礼奈ちゃんだけで、礼奈ちゃんとは言い合いとかもしてるから…ってだけなのに。


わかっているのに、どうしても顔は熱を持つばかりで。


「だから、それがダメなの。美羽がうっかり雨月のこと好きになっちゃったらどうすんだよ」


…あの、とりあえず。


……眺も離してくれませんか。そろそろ心臓の音も、この声にかき消されないくらい大きくなっちゃいそうなんですが。


「…別にいいけど」