振り向いても、イスのせいで当然雨月くんの顔は見えなくて。
「…どうしたの、雨月くん」
本当は顔を見て返事したかったな、なんて。
ちょっと後悔も残りつつも、返事をした。
「耳、貸して」
……そうは言っても。イスがあるよ。
そう思ったら、視界が影に包まれた。
頭の上を見ると、雨月くんが立っている。なるほど、私も立つのか。
立った私を確認すると、満足そうに微笑んだ雨月くん。そしてゆっくり、私の耳にその整った顔を近づけてくる。
ドキドキが止まらなくて、思わず目をつぶったそのとき。
「……酔い止めある?」
…なにこれ。
ただ耳元で言われてるだけなのに、ゾクゾクッと変な感じがして。
…だけど、「眺が相手だったらどんな感じなんだろう」とも思った。
「…美羽?」
「あっ、酔い止め?持ってきてるよ」
「……少しわけて」



