コイノネイロ

「音ちゃんのピアノは本当にいいのぉ」

「ありがとうございます」

「まだ憶えてる。あの時のコンクールの事を」

遠い目で、おじい様は言った。

すごく、寂しそうに。

「…ピアノ、いつでも弾きますよ。
聴きたい時、言ってください」

「ありがとう音ちゃん…」

あんなに凛々しかったのに、今は弱々しい。

記憶が落ちていくと、ここまで弱くなってしまうんだ…

「おじい様〜」

「誰だね?」

「「えっ」」

おじい様は、詩ちゃんの事を分かっていなかった。

「な、何言ってるのおじい様。
私だよ、詩だよ?」

「おじい様、詩ちゃんはおじい様の孫ですよ」

「孫…

あぁ、詩か」

記憶のタイムミリット。

もうすぐ、私達の事を忘れる日が来る事を表していた。

実の孫の事を忘れるくらいだから。