コイノネイロ

その後、おじい様から敦さんの代へと代わり、おじい様は引退した。

その間にも、おじい様の記憶は少しずつ無くなっていった。

新しい記憶を憶え続ける事が困難になってきたみたいだ。

「もうこんな時間か。仕事に行かなくては」

「あ、おじい様。

もうお仕事に行かなくていいんですよ。
敦さんが代わりにやってくれますから」

「…おぉ、そうじゃったな」

社長を譲った事さえも、憶え続けられないみたいだった。

「そうだおじい様。
私、ピアノ弾きますから聴きますか?」

「あぁ、是非とも聴かせてもらおう」

「じゃあ弾きますね」

弾く曲は、おじい様が好きな曲。

いつまで、憶えていられるのだろう。

いつかは、私達の事さえも忘れてしまうのだろうか。

嫌だなぁ…

忘れて欲しくないなぁ…