「へぇ、そうだったんだ。
彼方の弟がねぇ」

「でも、悲しがったりしてる雰囲気はなかった。

強いな、遥加くん」

すごく強い。

「音も強いよ」

「え?」

私の方に向き直ってこう言った。

「1度は辞めたピアノを、またこうやってやってるじゃないか。

琴音さんの死から、立ち直ったじゃないか」

ピアノとママの死から…

「俺が愛した奴は、とっても可愛くて強いよ」

「…っ!」

い、今のっ…

「さっ、さあ練習始めるよっ」

「うっ、うんっ…」

楽譜を広げた時、私のスマホが鳴った。

彼方くんからだった。

「もしもし?」

『音ちゃーん!

蘭子が馬鹿馬鹿言ってくるー!』

「へっ」

なんか涙声が聞こえてくるゾ。